日本の小麦の輸入事情
日本は小麦の食料自給率が低いのはご存知でしょうか?
第二次世界大戦終戦以来、小麦の輸入量は急速に拡大しました。
終戦当時、食料が足りていなかった日本に都合よくアメリカが小麦輸出の得意先にすべく、パン食を日本に定着させたんですね。
その頃から日本のお米中心の食生活は欧米化へ急速に変化していったのです。
今では、パンがお米の消費を上回るそう!
パンは大好きですが、日本の伝統の和食が減っていくのは悲しいことですね。
そう考えると、パンってとても複雑な立場にあるように感じます😂
令和元年度には、小麦の国内消費のうち84%(534万トン)を輸入に頼っています。
輸入国の内訳は下の図のようになっています。
そのうち、パン用小麦は「アメリカ」「カナダ」がほとんどを占めています。
輸入小麦の品種については後ほど説明します。
小麦の輸入制度
それでは、早速小麦の価格を決める仕組みについてみてみましょう。
政府売渡価格
麦は米に次ぐ主要食糧であり、麦の安定供給を確保するために国家貿易が行われています。
つまり、政府が輸入を管理しています。
政府が輸出国から商社を経由して購入し、製粉会社へ売り渡します。
それが政府売渡価格と言われるものです。
政府売渡価格は、下記のようになっています。
あれ?
よく見ると、輸入価格に何かが上乗せされていませんか?
この上乗せされているのがマークアップと言われる金額です。
国家貿易制度運営に係る管理経費及び国内産麦の生産振興対策に充てられるとされています。
つまり、国産小麦の自給率を上げる取り組みの一環です。
一部が麦作経営安定資金として生産者の収入になり、生産者を助ける制度となっているはずです!
このマークアップがなければ、農家さんは小麦を栽培し続けられないんだとか…
さらに詳しく! ※ざっと読みたい方は飛ばしていただいて結構です。
このマークアップですが、2018年発効したTPP11によって発効9年目、すなわち2027年までに45%の削減が設定されています。
TPP11は、アジア太平洋地域において貿易の障壁となる関税を自由化しようという協定です。
貿易が活発化するメリットがある一方で、安い製品が海外から入ってくることで国内の産業が打撃を受けたり、海外への依存度が高くなってしまうというデメリットもあります。
麦は国家貿易品目に指定されているため、関税がゼロになるわけではなく保護されています。
一安心かと思いきや、前述した通りマークアップは削減されます。
つまり、国内産麦の生産振興対策への費用が減ってしまうということです。
その分を国が負担するらしいのですが、現状でさえマークアップ分では補えていないのです。
助成金が減少すれば、小規模農家は経営が立ち行かなくなってしまうのではないかと心配です。
また、種子法の廃止により農業試験場などの公的研究機関が品種改良するための資金が減ってしまう可能性もあるのです。
そう考えると、国内産麦の将来がとても不安です…
相場連動制
さて、政府売渡価格は年2回改定されます。
これを相場連動制と言います。
小麦の価格が変動する要因としては、主に3つ。
①小麦の生産量などによる小麦国際相場の変動
②小麦需給の動向
③海上運賃や原油、為替の変動
これらを加味して、政府売渡価格が決定されます。
改定時期は、4月と10月です。
小麦粉の価格
上記のような仕組みとなっているため、小麦粉の価格は各製粉メーカーでほぼ同じ金額となっています。(輸送などの経費に差異は多少あります)
また、小麦の価格の改定に伴い、小麦粉の価格も年2回改定されます。
小麦の価格が改定されるのは4月と10月ですが、小麦粉の価格の改定はその2、3ヶ月後になります。
続いては、小麦粉の価格改定に時差がある理由を説明します。
小麦の備蓄制度(即時販売方式)
小麦には備蓄制度というものがあります。
不測の事態に備え、必要量を備蓄しておくという制度です。
小麦は主要食糧であることから、国家貿易制度として製粉会社が2.3ヶ月分の小麦を備蓄しなければなりません。
そのため、小麦の売渡価格が改定されても2.3ヶ月分の小麦粉は改定前の値段で販売されるわけです。
ちなみに、2010年9月までは、国が1.8ヶ月分、製粉会社等の民間が0.5ヶ月分の備蓄をしていました。
その後、民間備蓄に一本化されました。
今まで国が管理されていた1.8ヶ月分の備蓄費用は国からの助成金が出るそうです。
輸入小麦の銘柄
政府が管理する主要な小麦は以下の5銘柄です。
①アメリカ産ダーク・ノーザン・スプリング(DNS) →強力粉
②アメリカ産ハード・レッド・ウィンター(HRW) →強力粉
③アメリカ産ウェスタン・ホワイト(WW) →薄力粉
④カナダ産ウェスタン・レッド・スプリング(1CW) →強力粉
⑤オーストラリア産スタンダード・ホワイト(ASW) →中力粉
(5銘柄内訳)
うどん用として使われるASWは品質がとても良いとされていますが、日本の“きたほなみ”もそれに劣らない品質の良さが評価されています。
かつて、カナダ産のウェスタン・レッド・スプリングは、世界で最も製パン性に優れていると言われていました。
今はどうなんでしょうか…
輸入制度の歴史
現在は「相場連動制」が導入されていますが、2007年4月の食糧法の改正までは「標準売渡価格制度」が59年間採用されていました。
これは、1年間は売渡価格を固定するというもので、輸入価格が変動に合わせてマークアップも変動するしくみです。
標準売渡価格は、当初消費者の家計へインフレの影響が及ばないようにすることを目的として導入されたそうです。
インフレは想定し難い、小麦粉の価格も低下傾向であることから制度の変更をしたと厚生労働省の資料には記載されています。
さらに詳しく! ※ざっと読みたい方は飛ばしていただいて結構です。
正確にいうと、輸入小麦の制度には前述した政府が運用する相場連動制とは別にSBS方式(売買同時契約)というものがあります。(2007年食糧法改正により、SBS方式を導入)
これは、売り手である商社等の輸入業者と買い手である製粉会社等の買受会社が連名で政府への売渡と買受に関する申し込みを行います。
つまり、輸入者→政府→製粉会社だったものが、輸入者と製粉会社が直接的に契約するしくみです。
この制度のメリットとしては、国家貿易では輸入できない小ロットの輸入に対応できるという点です。
製粉会社は買い付ける麦の銘柄や輸入時期、港、数量等を独自に選定が可能になります。
製粉業界の競争力が求められるようになったというわけです。
オーストラリア産プライム・ハードやパスタ用のカナダ産デュラム小麦など消費量が少ない銘柄が対象となっています。
制度の変化で言える大事なことは、
国際市場の相場の動きが末端の消費者の方々の家計に実質的に反映されていく
吉原食糧株式会社-【1】最近の食品のか価格変動の背景にあるもの
従来、日本人が長く当たり前に考えてきた「食品の価格はほぼ安定しているもの」ではなく、変動する構造に変わろうとしている
制度が変更してから10年以上が経ちますが、現状では大きな変化を感じません。
しかし、穀物の国際相場が変わらず安定であるという油断は大敵であると思います。
このまま、流されるままに輸入に頼っていて良いのでしょうか。
輸入には他にも残留農薬や遺伝子組換えの問題もあります。
国の制度やら大きなことは私には変えられませんが、私なりに調べて考え続け、75億人分の1の力で少しでも役に立てればと思います。
さいごに
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
これからも小麦について調べ、まとめていきたいと思っています。
よろしくお願いいたします。
参考資料:
農林水産省-輸入小麦の政府売渡価格の改定について
日清製粉グループ-小麦・小麦の価格のしくみ
ニップン-ご参考資料 麦制度の改定(2016年5月24日)